MU80対SC88徹底比較講座

MU80-SC88徹底比較講座

「音質、EQ、その他」

もくじ(読みたい項目をクリックして下さい)


■MU80、SC88の出音比較

    今回の講座のはじめに、MU80とSC88の出音はどう違うのか、というテーマについて、私の考えるところを書いてみしょう。

    MU80とSC88の音の性質は、どちらもDTMというユースを意識し、アンサンブルで演奏した場合のまとまりを重視しているという点では共通しています。
    ですが、プリセットされている音色を1つずつ比較すると、同じ楽器の音であっても立ち上がり、倍音、減衰の仕方など、全く異なっていることに気付きます。中には、音色名だけが共通で別の楽器をサンプリングしたのでは?と思える音色さえあります。

    考えてみると、シンセサイザーのようにソロで演奏する楽器の場合はともかく、DTM音源のようにアンサンブルで演奏することを目的とした楽器の場合、音色を1つずつ比較することに大きな意味はないのかもしれません。
    たいていの場合、単独で演奏したときの鳴り方と、アンサンブルでの鳴り方では違って聴こえるものです。
    MU80、SC88それぞれの中で1つの世界が完結しているわけで、たとえ1音だけを聴くといまいちでも、その世界の中では必要不可欠の音だったりします。

    といったことを踏まえた上でこの2機種の出音を比較すると、大ざっぱにいって次のような違いが見えてきます。それぞれの機種の特徴を、簡単にまとめてみましょう。

    MU80は、強力なエフェクトとフィルター、ピッチEGを内蔵し、表現力を重視した構成になっています。プリセットされている音色もオン・マイクでサンプリングされた生々しい音で、エフェクトのノリがよく、加工しやすく、データを作り込むことで表現力豊かな演奏を再現することができます。
    ただし、思い通りの表現を出すためには、エフェクトの使い方をはじめ、ある程度のテクニックが必要です。逆に、テクニックさえ身につければ、それに答えてくれるポテンシャルを持った音源だともいえます。

    SC88は、まとまりの良さや、データの作り易さを重視した構成になっています。
    プリセット音は、エフェクト感やアタック時のピッチ変化、ブレス・ノイズなどをはじめから含んだ、いわば味付けされた音が多く、データを作り込まない状態でもその楽器らしい演奏をある程度再現することができます。
    ただし、データの完成度を上げようとしたときに、アタック時のピッチ変化やブレス・ノイズがじゃまになって表現の幅が狭くなることもあります。エフェクトを使った演奏の再現性や表現力には目をつぶって、まとまりの良いデータを手軽に作るには便利な音源だといえます。

    ドラム音色についても、同じ傾向があります。
    MU80のドラム音色は全体に前に出てきており、エフェクトやフィルターによる加工がしやすくなっています。SC88は、インストゥルメント全体が奥に引っ込んでいて、演奏をまとめやすくなっています。

    音色の傾向をジャンルで仕分けすると、MU80は`60年代、`70年代ロック風、SC88はテクノ、ダンス風といったところでしようか。
    ギター系も、ディストーションやオーバー・ドライブなどの歪みサウンドでは強力なエフェクトを持つMU80が、アコースティック・ギターやクリーン・ギターではSC88が優れています。
    とはいっても、MU80でテクノやダンスが、SC88でディストーション・サウンドが表現できないわけではありません。
    これらの仕分けは一つの目安と考えてください。

    MU80とSC88をはじめとするXGとGSの出音の違いは、カラーの違いであり、感性や好みの問題です。
    同じ風景を絵にするのに、メーカーの違う2種類の色鉛筆があるようなものです。
    メーカーが違うと色のニュアンスが異なるため、できあがりは雰囲気の違う絵になります。どのメーカーの色鉛筆を使うかは、どういう雰囲気の絵を描きたいかを考えて判断する以外ありません。みなさんもこの記事を参考にして、自分の耳で判断してください。



■ イコライザー(EQ)の比較

    さて、次に両機種の内蔵するイコライザー(EQ)の機能について比較しましょう

    EQはアンプやスピーカー、部屋の特性に合わせて音場環境を補正する目的で使われますが、音源内蔵のEQの場合はこういった使い方は一般的ではありません。
    というのは、制作したデータを個人で楽しむのでない限り、データを作成する環境と異なった環境で再生する場合の方が多く、また再生するたびに音場環境に合わせてデータをエディットするというのは現実的に考えにくいからです。

    そもそも音源モジュールやシンセサイザーなどは、出音の周波数特性によって用途がある程度決まってしう傾向があります。
    そこでMU80、SC88では、全てのジャンルに合うオールマイティーな音源にするために、エフェクトとは独立してEQを内蔵させたのだと考えられます。

    では、両機種のEQの機能を細かく見ていくことにしましょう。

    MU80の内蔵するEQは、5バンドのグラフィックEQで、あらかじめFlatを含めて5種類のEQタイプをプリセットとして持っています。
    そのため、クラシック風、ジャズ風といった音楽ジャンルごとのイコライジングは、プレセットのEQタイプを選ぶだけで設定完了です。
    バンドごとの周波数帯域は、EQタイプによって表1のように変化します。

    これも、ジャンルごとにおいしい帯域がカバーされています。また、帯域ごとのレベルは-12dB〜+12dBの範囲でブースト、カットできます。

    さて、表2を見てください。

    これは、エクスクルーシブ・メッセージで操作できるパラメーター・リストです。
    で、この表を見ると、このEQが実はパラメトリックEQであるということが分かると思います。
    各バンドに周波数とQ(特性の強さ)の設定があり、両端のバンドではシェイプ(特性カーブ)も選択できます。
    これだけパラメーターがあると使いこなすのが大変ですが、効果の方は保証付きです。
    グライコ程度じゃ物足りないという方は、パラメーター・チェンジを駆使して音を加工しまくってください。

    次に、SC88のEQを検証しましょう。

    SC88の内蔵するEQは、HighとLowの2バンドからなるグラフィックEQです。
    バンドごとの周波数帯域は、High、Lowとも2種類の周波数から選択できます。
    また、帯域ごとのレベルは-12dB〜+12dBの範囲でブースト、カットできます。
    MU80と比較すると、やや物足りないといった印象のEQです。

    SC88のEQに特徴的な機能としては、パートごとにオン/オフ・スイッチが付いていることがあげられます。
    SC88では、パートを選択してEQボタンを押すだけで、パートごとにEQのオン/オフを設定することができ、特定のパートだけを補正したいときなどに便利です。
    しかし、よく考えてみると、パートごとのオン/オフが可能であるということはEQがオーディオの出口に付いていないということです。
    では、EQはどこに付いているのかな、と思ってマニュアルを見ると、図1のようにエフェクトのドライラインに付いているのが分かりました。

    この図から見る限り、SC88のEQでイコライジングできるのはドライ音だけのようです。
    もしこれが間違いないとすると、EQによる周波数特性の補正の効果はあまり期待できません。



■ポート信号によるマルチMIDI

    次に、ポート信号によるマルチMIDI機能について解説します。

    MU80は、TO HOST端子とコンピューターのシリアル端子を接続した状態で、ポート信号を受信することができます。

    ポート信号とは、1本のシリアル・ケーブルを通してMIDIを複数ポート使用するための信号です。

    ポート信号を使うと、ポートごとに1〜16チャンネルを独立して割り当てられるため、たとえば2ポートで32パート、3ポートで48パートの音源が同時にコントロール可能になります。

    ポート信号は、以前からMOTU社のPerformerとMIDIタイムピースとの組み合わせで使われていました。
    MIDIタイムピースは8つのポートを持ち、合計128パートの音源をコントロールすることができます。

    MIDI規格ではチャンネルは1〜16チャンネルだけで、複数ポートの指定などは定義されていません。
    ですからポート信号とは、MIDIとは関係のないコンピューターとMIDIインターフェースの間でのクローズな規格であり、ポート信号が機能するのも、「1.コンピューターとポート信号対応のMIDIインターフェースがシリアル接続され」、「2.コンピューター上でポート信号対応のシーケンス・ソフトが起動している」場合に限られます。

    MU80の場合も正確には、「MU80内部のMIDIインターフェース・ブロックが、MIDIタイムピースと同等のポート信号対応のMIDIインターフェースとして機能する」ということになります。
    具体的には、MU80ではポート信号を同時に3ポートまで受信することができます(図2)。

    まず、ポート1のチャンネル1〜16のデータでは、音源部のMIDI受信チャンネルA01〜A16が設定されているパート(初期状態ではパート1〜16)が発音します。
    同様に、ポート2のチャンネル1〜16のデータでは、音源部のMIDI受信チャンネルB01〜16が設定されているパート(初期状態ではパート17〜32)が発音します。
    ここまでは受信するポート番号が固定されているのですが、3ポート目はポート番号をMU80側で設定することができます(システム・セットアップのThru Port)。
    この3ポート目のデータはMIDI OUT端子からスルーされ、MIDI接続された別の音源モジュールに送られます。つまり、本体の32パートと別音源の16パートを合わせて最大48パートの演奏を再生することができるわけです(図3)。

    一方、SC88はマニュアルにポート信号に関する記載は一切無いものの、Performerを使ってポート信号付のデータを送ると、MU80と同様にシリアル・ケーブル1本で本体内の32パートが再生できる状態になり、ポート信号に対応しているのが分かります。
    ただし、SC88にはMU80のThru Portに当たる設定はなく、MIDI OUTからはポート1のデータがスルーされます。そのため、別音源を接続しても本体のパート・グループAと同じ演奏が再生されるだけで、MU80のように48パートの演奏にはなりません。

    このように非常に便利なポート信号ですが、どのソフトでもこの機能が使えるわけではなく、シーケンスソフトがポート信号に対応している必要があります。代表的なところでは、Performer、Vision、LOGICなどのソフトがポート信号に対応しており、前記の機能を使用することができます。

    たとえばPerformer5.04では、まずFreeMIDI(Performer5.04に付属のMIDIドライバー・ソフト)でインターフェースにMIDIタイムピースを選び、デバイスとしてMU80もしくはSC88を複数設定した後、図4のようにMIDIタイムピースの各ポートにデバイスを接続すればOK。

    図4では、ポート1にMU80、ポート2にMU80(2)、ポート3にMU80(3)が設定されています。

    インターフェースの設定では、MU80、SC88をシリアル接続した後、SCANというボタンをクリックすると、FreeMIDIが自動的にMIDIタイムピースを選び出してきます。(図5)

    FreeMIDIの設定が終われば、図6のようにPerformerの各トラックのMIDIチャンネルで、出力したいポートを設定します。

    図6の例では、Track-1〜5がポート1、Track-6〜10がポート2、Track-11〜14がポート3へ出力されます。



■ 対応データ数の比較

    この講座では、主にMU80、SC88両機種の機能面での比較を行ってきました。
    この2機種を比較した場合、機能面では後発のMU80が優位に立つだろうということは、この講座のはじめでも予想していました。
    また、XGとGSという2つの音源規格を比較しても、やはりGSを研究した後に発表されたXGが機能的に優れていることはおおよそ想像がついていました。ここまで機能面での比較をして、予想通りの結果になったワケです。

    これに対して、SC88、GSには、先行したことで蓄積された対応データ数とユーザー数が、最大の優位点としてあるはずです。

    ここでは、現在発売されているXG、GS対応のデータのタイトル数と、NIFTYのMIDIにアップ・ロードされたデータで使用されている音源の種類を集計してみました。

    まず、市販データのタイトル数を比較してみましょう。
    GS対応データは、エディロールとローランドが発行している「MUSIC DATA CATALOGUE」でカウントしました。
    ただし、入手できたのが1995年10月作成のものなので、若干のタイムラグはご容赦ください。
    また、XG対応データは、ヤマハが発行している「XG INFORMATION」でカウントしました。こちらも、入手できたのが1995年11月作成のものなので、若干のタイムラグがあります。ご容赦ください。

    さて集計結果ですが、総タイトル数はGSが384タイトル、XGが126タイトルでした。
    倍以上の開きがあるものの、発表された時期から考えるとXGが大健闘というところでしょうか。ここ数カ月のXGデータ曲集の発売ペースが早いため、この差は徐々に詰まりつつあるようです。

    次に、NIFTY-ServeのMIDIデータ・フォーラムに於いて10月と11月の2ヶ月間でアップ・ロードされたデータと、MIDIオリジナル・フォーラムに於いて9月〜11月の3ヶ月間でアップ・ロードされたデータについて集計を行いました。
    MIDIデータ・フォーラムは国内のポップスや歌謡曲などのコピー・データを、またMIDIオリジナル・フォーラムはオリジナル曲をアップ・ロードして、互いに感想を話したり制作上の疑問点を質問し合うNIFTY-Serve内のフォーラムです。集計結果は表3の通りです。

    まず、MIDIデータ・フォーラムの集計結果ですが、トータルのデータ数が455曲、GSに対応したデータは341曲(74.9%)、XGに対応したデータは24曲(5.2%)です。

    MIDIオリジナル・フォーラムの集計結果は、トータルのデータ曲数が400曲、GSに対応したデータは302曲(75.5%)、XGに対応したデータは14曲(3.5%)です。

    この集計結果を見る限り、GSとXGのユーザー数に大きな差があることが分かります。
    また、GSとXGの歴史の違いから、XGユーザーに比べてGSユーザーのレベルが全体に高く、データを制作するユーザーの割合が高いということも考えられます。
    2つの規格が競い合ってDTM音源がより機能アップするためにも、今後のXGの拡がりに期待したいと思います。

■ お詫びと訂正

さて、MU80、SC88徹底比較講座は、これで終わりです。MU80、SC88の比較というテーマは、考えようによって広くも狭くも受け取れるテーマであり、結果的に視点が一定していなかったと反省しています。でも、個人的には記事を書きながらあらためて発見したことも多く、結構楽しみながら書くことができました。 MU80、SC88徹底比較講座はこれで終わりですが、MU80とSC88はXG、GSのハイエンド機種として、まだまだ比較対象になるでしょう。この講座で取り上げなかった視点で、どんどんこの両機種とXG、GSを比較してください。